8月中旬に東京池袋「シネマ・ロサ」で公開された、安田淳一監督によるインディペンデント映画『侍タイムスリッパー』。11月末までに全国340館公開という大ヒットとなったこの映画で、主演の高坂新左衛門を演じたのが、山口馬木也さん。デビューしてから25年。名脇役として数々の名作に出演してきましたが、初の主役となったこの映画のヒットで、一躍脚光を浴びています。
幸先の良い池袋で、フレグラボのインタビューに応じていただきました。実直な物腰はまさにどこか「高坂殿」です。
上背もあり、彫りの深い顔立ち。時代劇の衣装ではない山口馬木也さんが現れると、その場が華やぐような気配があります。しかしご本人は、至って平常心で、謙虚な姿勢。
映画の大ヒットも、まだ信じられないといった表情です。
「脚本を読んだとき、すごくいい映画だなあと思ったんですけどね。まさかまさか、監督もああいうふうによく撮ってくださって。ここまでウケるとは、本当にまさかまさかなんですが」
映画のストーリーの舞台は幕末から始まります。江戸幕府を守ろうと志高い会津藩の藩士、高坂新左衛門は敵を待ち伏せし、出逢えたところで落雷に遭います。気づけばそこは、現代の京都の時代劇の撮影所。そこですでに幕府は無くなったことを知り、できることは斬られ役しかないと、一念発起。そこからは現代に順応していく彼がコミカルに描かれますが、ラストシーンでは、ガラッと空気が一変、手に汗握り、胸がいっぱいになります。
主演の山口さんもさることながら、出てくる役者さんが皆自然体で、皆懸命なのです。監督も、制作費捻出のために自らの私財を投げ打ったそうです。
「僕自身、これで何かをつかもうなんて気持ちはまったくなかったんです。主役の器じゃないと思っていましたし。完成するかどうかもわからなかった時期もありました。監督が作ったものは絶対に面白いとは思っていましたが、こんなにたくさんの人に観ていただけるとは、携わった人間は誰一人思っていなかったと思います。当初は、主役も僕じゃないはずだった」
実は当初、監督は、主役を山口さんではなく、冨家ノリマサさんと想定されていたというのです。
「僕が風見恭一郎の役のはずだったんです。でも、監督がNHKのあるドラマを観ていて、冨家さんを観て『この人が風見恭一郎だ』と思ったと。それで主役がいない、と思っていらした。じゃあ、山口馬木也を主役にするか、と」
もはや一度映画を観ると、絶対に山口さんが高坂新左衛門だし、冨家さんが風見恭一郎なのですが。