そんな嶋川さんは、NSC東京校8期生のリーダー的な存在になっていった。今、コンビを組んでいる関あつしさんと、同期で結成したお笑い集団「みちのくボンガーズ」のメンバーとして知り合うことになる。
「昔気質な作家さんが率いているんですが、打ち合わせをしていてもだんだんイライラしてくるから、酒が始まって。いろいろとあそこで理不尽を学びましたね。だいぶ精神的に強くなりました」(関)
関さんはずっとお笑いを志してきた人。
「僕はお笑いをずっとやりたくて、お笑い芸人をリスペクトし過ぎて、僕なんかなれないだろうと思っていたタイプでした。爆笑問題さん、海砂利水魚さん、アンタッチャブルさん。最初はミーハーに入って、高校生の時にオーディションを受けたり。だからもう、そのお笑い集団に入ったのは衝撃の世界でした。イメージした芸人の世界と違い過ぎて。公演ごとに、お前とお前、ちょっと組んでやってみろとか、毎回変えられる。そのときに、嶋川さんと僕ともうひとりの三人で組まされたんです」(関)
3人でやったのが巌流島のコントだった。宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の対決に、武蔵のお母さんがやってくるという設定。ネタを書いたのは関さんだった。
「モンスターペアレンツみたいなお母さんが来て、決闘に入ってきたら面白いなと思ったんです。それで、嶋川さんに女装してお母さん役をやってくれませんか、と。一番大ボケな役ですから、と。ところがそこで嶋川さんは『俺は佐々木小次郎をやりたい』と言うんです。役者としての魂があるわけです(笑)」(関)
しぶしぶお母さん役を引き受けた嶋川さんは、そこで大いに笑いをとった。
「嶋川さんは普段、真面目な人だし、座長だから怖かったし。でも、キャラクターが入ったときに、完璧に演じられるんですよ。この人、もしかしたらキャラクター入ってやる漫才って可能なのかなと思ったんです。この人組んだら、ワンチャンあるかも。売れるんじゃないかと」(関)
関さんは思い切って嶋川さんを飲みに誘いました。
「それで、コンビを組みませんか、と。実は僕も誰も誘ってくれない状態だったし(笑)」(関)
このとき、嶋川さんも内心、誰ともコンビを組めず、ちょっと焦っていたと言う。
「めんどくせえなって思われていたんでしょうね。あいつと組んだら、ちょっときついな、みたいな(笑)」(嶋川)
関さんは「嶋川さんとなら絶対面白い漫才ができる」という確信があった。
「その代わり、ごめんなさい、コンビになるので一旦、先輩後輩という関係をフラットにしていいですか、と言いました」(関)
関さんがネタを書き、嶋川さんはそれを演じる。そんな漫才が始まった。
「昨日も新ネタをおろすライブをやったんですが、全部相方が考えているし、相変わらず僕は面白いのかどうか、ウケるのかどうかわからない。わ、ウケてるわ、これ、って思うんですよ。ちょっと僕には思いつかないことを書いてくれるんです」(嶋川)
「それが嶋川さんの面白いところ。僕は手を抜かずに一生懸命書くし、嶋川さんはそれを一生懸命演じてくれる。人が書いたセリフを自分の言葉にする才能がすごいんだと思います。だからまさに政治家なんですよ」(関)。
嶋川さんは4年前、本当に政治家にもなった。高岡市の市議会議員に初出馬し、初当選したのだった。
しかし、過去に嶋川さんは関さんに「政治家にだけは絶対ならない」と言っていたのだった。
だが関さんは嶋川さんがもともと政治家気質であることを見抜いていたようだ。
「最初にコンビを組むときに、僕、聞いたんです。『嶋川さん、政治家になろうと思ってますか』と。座長としての立ち居振る舞いとか、イベントをやっているときに他の企業とうまくやっている様子とかを見ていたので。そうしたら『政治家にだけは絶対ならない』と言うんです」(関)
しかし嶋川さんの気持ちをじわじわ変えていたのは、生まれ育った地元の変化だった。
「なんというか、自分の故郷が右肩下がりになっていくのをなんとかできないのかなあと。それで、円楽師匠に相談したんです。そうしたら『おまえ、国を語るんじゃないぞ。どぶさらいに行くんだったら、俺は応援してやるから』と。それで、どぶさらい、どぶ板選挙をやってきます、と。
一軒ずつ、家を回って。師匠も応援に来てくださいました。だから、理想があって、というよりは、まずアクションを起こすということで、ちょっとでも希望が生まれたり、何かが変わるんじゃないかという思いで踏み込んだんです」(嶋川)
ではお笑いとの両立をどう捉えるのか。
「僕のライフワークは『笑顔づくり』。今、目の前のお客さんを笑顔にするのは漫才で、未来の笑顔をつくるのが政治。そういうふうに自分の中で繋げています。まず『笑顔づくり』。その手段としての漫才であり、政治なんです」(嶋川)
嶋川さんは「嘘をつくのは嫌」だと言う。
「歌舞伎漫才をするときも、見よう見まねがいやで、それで日本舞踊を続けて名取もとらせていただきました。今、政治漫才もやりますが、自分は真面目に政治もやっているからこそネタで『国政どうなってんだ』と言うときの重みも違う。また政治が漫才にも生きているわけなんです」(嶋川)
ネタをつくる関さんは、嶋川さんの立ち位置をしっかり捉えつつ、難しい着地点を探る。
「めっちゃ聞きますよ。嶋川さんは今何を考えてるの、疑問ある、とか。ただ掛け合いが面白い、っていうことではないように」(関)
漫才と政治。その難しい均衡を今はうまくはかっている。
「ある種のアイデンティティというか、オリジナリティに結びつけば良いなと思っています。今の時代、二刀流は当たり前だと思うし。ただプレッシャーはあります。どちらも片手間にはできないから。ちゃんと漫才もしたいし、政治も手を抜きたくない。最初の頃は難しかった。政治のことがわからないから、2~3ヶ月は舞台は休ませてもらって、政治ばかりでした。ずーっと1人で挨拶してると、掛け合いに支障が出たり。漫才や演芸って生物で、場数もいるし、体に染み込ませてやるものだから。一生懸命やっています。」(嶋川)。