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    第257回:母心(お笑いコンビ)

《4》The secondでベスト16。漫才でも一線にいたい

 一つの道標として「The second」に出場して得た結果は大きかった。

「漫才でも結果は出していかないと。それで、フジテレビの16年以上のコンビで競う『The second』は、この2年続けて出ました。最初の年はベスト32に。そして今年はベスト16まで行きました。それで一応、芸人界隈では知ってもらえるようにようやくなってきたのかな。第一線で漫才をしているということは自分のアイデンティティではあるので」(嶋川)

 しかし嶋川さんは本心では賞レースを好まない。そこで関さんの作戦が功を奏した。

「2分で評価されるのは嫌だと。それは僕もわかるんですよ。だからM-1はやめて。その代わり、大会だと言わずにとりあえずスケジュール入れて『嶋川さん、とにかく5分漫才すればいいから』と。それで32組に残って。初めてどういう大会なのか説明したんです。日本一を決めるベテラン大会ですよ、と。で、ベスト16まで行くと『このネタ次にやった方がいい』とか、急に言い出して(笑)」(関)

 お互いをよく知る2人の心理戦が面白い。嶋川さんは関さんのこの作戦をこんなふうに受け止めている。

「この2年を経て思いますが、僕に全部は言わない方がいい(笑)。僕は余計なことを言うし、考えない方がいいんです。まともに聞くから、まともに色々言っちゃう。だけど言わないくらいがちょうどいい。やがてコンビ結成20年ですから。そのくらいがいいんです」。(嶋川)

 2人を象徴するエピソードとして、コンビを組み始めた頃のこんな話がある。

「昔、コンビを組むときに、もう漫才に集中しよう、って。ギャンブル、お酒、煙草、全部やめようって2人で誓ったんですよ。M-1で2回戦しかいけなかったし、2人でまだ共同生活をしていましたから。で、俺がバイトへ行って帰ってきたら、嶋川さんがいなくて。おかしいなと思ってベランダの方を見たら、ガラス窓に煙が見えて。ガラガラっと開けたら、嶋川さん、しゃがんで煙草を吸ってたんです(笑)」(関)

「ごめん。あのさ、関ちゃん、パチンコ、煙草、酒、一気には無理だから、どれか1個だけやめよう、って」(嶋川)

「嶋川さんのそういうダメなところ、人間臭いところを、漫才では引き出していけたらいいなと思うんですよ。周りからすごくちゃんとしてるように見える人だから」。(関)

 普遍的な人間のダメさが愛らしさになり、人間臭さが笑いになる。その原点を2人はお互いにお互いのキャラクターを理解することで表現できるようになった。まさにそれが18年の結実だろう。

母心

《5》6代目円楽師匠は父親的な存在

 嶋川さんの妻は事務所の社長。彼女は長年、6代目三遊亭円楽師匠の敏腕マネージャーとしても働いてきた人だ。母心の2人はずいぶん、円楽師匠に可愛がられてきた。

「お香の香りをかぐとね、円楽師匠のことを思い出すんですよ。師匠は着物にいつも香をたいていらしたから。自分は師匠に落語を四席教えていただいたんです。それも妻に教えてもらった方がいいと無茶振りされて(笑)、師匠のところへ行きました。一席習ったら、じゃ、次、次って四席も。着物もいただきました。その着物に袖を通すと、やっぱりその香りがするんです。僕たちは師匠がいなかったし、折に触れ、父親的な存在は円楽師匠なんです」(嶋川)

「僕は多分、初めてご挨拶に行くのに、事務所でホテル代出せないから、泊めてあげてくださいという流れになって、初対面で円楽師匠のところに泊めてもらったんです。師匠とテレビのニュースを見ながら飲んで話していました。だんだん芸事の話になって『普遍的な笑いというのがあるから、とにかく10分のそういう鉄板ネタを5本つくれ』と言われました。いつの時代になっても変わらない笑いがあるから、って。『それがあれば、おまえら、食っていける。それを目標にがんばれ』って言われて。酔っ払っていて、何枚かの紙に殴り書きでメモを書いてくださったんですが、酔っ払っててパズルみたいになっていました。記憶にはしっかり残っています」(関)

 関さんはその言葉を心に刻み、まず歌舞伎漫才、そして政治漫才ができた。
 母心の漫才は、安心して聴くことができて、安心して笑える。それが普遍な笑いというものだろう。2人の方向性は違うように見えて、真剣さは同じくらい強い。そして何より、人としての根底にある同じ質の優しさが透けて見えるのだ。

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母心

●MANZAILIVE194 Vol.2
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com


2025.9.22written by 森綾
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