フレグラボ|日本香堂

人と香りをつなぐwebマガジン

Fraglab
  1. HOME
  2. スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
  3. 第235回:北原佐和子さん(俳優、ケアマネジャー、准看護師)
    1. 特集
  • スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
    第235回:北原佐和子さん(俳優、ケアマネジャー、准看護師)

    1. シェア
    2. LINEで送る

《2》介護の仕事を深める10年で、コミュニケーションの大切さを痛感した

 その後北原さんは無事に准看護士の資格を取得。看護師として認知症の方が訪れるクリニックでの勤務を経験、同時にグループホームのケアマネジャーをしています。これまでの学びや体験から『ケアマネ女優の実践ノート』が生まれました。

「ちょうど10年前に本を出しているんですが、そのときは3大介護と言って、入浴、排泄、食事のQ&Aに答えるような内容でした。その後、10年間の間に何が大切なんだろうと考えたときに、絶対にコミュニケーションだなと。人と人との関わり方、つながり方がとても大切だと思ったんです」

 実例として、本にはいろんな人が出てきます。命令する人。つい杖で人を叩いてしまう人。「自分でできるから大丈夫」と介護を断る人。お風呂に入りたがらない人。…

「介護をする側から言えば、対応が難しい人はたくさんいます。でもそういった行為にもちゃんと理由があって、利用者さんの立場からすれば、『この空間にいることが窮屈なんだよ』というような思いもあると思います。だけど他に行き場所がない。必死でこれまで生きてきたのに、自分の意に沿わないところに連れてこられたという腹立たしさ。いろんな思いがあると思うんです。そう考えると、他人から見て理解できない行動をとってしまうのもわかるような気がします。その人の態度を『もし自分だったら』と置き換える。そう捉えることが利用者さんに近づく第一歩だと思うんです」

 そこまで捉えてこそ「見守る」ということにつながるのでしょう。
 この本には、介護される人もする人も一緒に簡単に楽しめる体操の提案や、相談窓口のことなども記されています。

「例えば自分の両親が『ちょっといつもと違う? もしかして認知症っぽい?』と感じたとき、どうしたらいいかまったくわからない人もたくさんいらっしゃいます。そのときは、まずは地域包括支援センターか福祉課に相談するとか。そういった基本のことから書いています」

《3》身内だとなぜムキになってしまうのか

 自分の両親が認知症になったら。それは誰しも無関係な話ではなさそうです。

「実は私の母も、そういう傾向が出てきました。先日、階段から落ちたのですが『誰かが入ってきて突き落とした』と言うんです。『誰が突き落としたの』と聞くと、母は『お父さんがよその近所の女の人と仲良くなって、その人を連れ込んで』とか。一応、父にも聞いたら『そんなことするわけないだろ』と。確かに二人で住んでいるのに、そんなことはありえないです」

 また別の日には、北原さんが高血圧のお母様に血圧の薬を飲むよう促したときのこと。

「母は『血圧の薬なんて効かない』って言うんです。飲んでないわけですよね。もっと初歩的なところで『血圧、測ってる?』と聞くと『測ってない。自分では何の問題もない』と言うわけです。『血圧、お願いだから測って』というと、どこか奥の方から箱に入ったままの血圧計が出てきました。『テーブルの上に置いておいて、毎日測ってね』と言うと『あんたが言うなら測らなくちゃ』と。でも、次に行くとまたどこか奥の方へしまってあるんです。考えると、高血圧の薬を必要と思っていない人は、血圧を測らないですよね(苦笑)。ある日突然……ということにならないようにと願うばかりです」

 この話はどちらも認知症症状の一つかもしれない、同じ悩みを抱えている方も多いと考えて、北原さんはお母様のことを文章に残しているそうです。

「母に関しては、高齢者住宅新聞のコラム連載に、一度、恥ずかしながら書いてみたんです。書いてみると、ちょっと冷静になれたんです。正直言って、母の変化に直面すると、いい加減にしてよ、お願いだからとかってムキになっちゃう。肉親ほど、感情があふれちゃう。でも、書くことで冷静になった自分に驚き、少しコミカルに捉えることができたんです」

 書くことで冷静になり、客観的に見れるようになったいうことでしょう。

 お母様のことがあってから、グループホームの利用者の方々のご家族の気持ちがよくわかり、その難しさを彼女は改めて痛感しました。介護士としての立場と、身内としての立場と、その両方の中でどうすればいいか悩むこともしばしば。でもその繰り返しの末、少しずつ俯瞰して見れるようになってきたと言います。

「例えば母が利用者さんだったら、私はどうするだろうと思うんです。利用者さんに対しては優しい言葉をかけられます。でも親とは距離が近すぎて、感情的になっていたんですね」

それは誰もが感じるところかもしれません。

「私の母の話を通して、自分の親との関係性を冷静に見直すきっかけや、ある日突然何が起きるかわからない、その突然に対する心構えになるといいな、と思います」

北原佐和子さん

  1. 2/3

スペシャルムービー

  • 花風PLATINA
    Blue Rose
    (ブルーローズ)

  • 日本香堂公式
    お香の楽しみ方

  • 日本香堂公式
    製品へのこだわり

フレグラボ公式Xを
フォローする