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    第236回:波戸場承龍さん、波戸場耀鳳さん(紋章上繪師)

《4》Ferrariに家紋。京源のwebsiteから問い合わせが

 日本古来の伝統を感じさせつつ、まったく新しい家紋の作品は、海外の企業からも注目されています。2022年のコロナ禍には、あのフェラーリ社からの仕事が舞い込みました。
「フェラーリ社がアメリカのCool Huntingというメディアとのコラボレーションで、日本の伝統技術を注ぎ込んだ1台をテーラーメイドするというプロジェクトがあったんです。当初はプロジェクトメンバーに入っていなかったのですが、途中で『家紋を入れるのはどうか』と、行き着いた。プロジェクトに関わっていた日本人のプロデューサーがネットで検索して、うちを選んでくださったんです」(承龍)

 それは耀鳳さんがつくった京源のwebsiteが信頼に値する、素晴らしいものだったからでしょう。
 後々、やりとりが始まり、その方が持っていた本が波戸場さんが出した『紋の辞典』(雷鳥社)だったこともわかりました。「これも波戸場さんのものだったのですね」と驚かれたそうです。

 波戸場親子は、ニューヨークでのその限定車の発表に際し、サプライズで紋の入ったフェラーリを描いて、北米CEOにプレゼントしようと考えました。

「ところが、事前許可なしにフェラーリを作品等で使ってはいけないという事をその場で知りまして。受け取らないかもしれないと言われたんですが、お渡ししたら『すごくいいね』と。記念撮影をしたんですが、そのとき、イタリアサイドのデザイナーが『うちにはないの』とおっしゃって。それでもう1枚、なんと作品として購入してくださることになったんです。それで1ヶ月後、二人でイタリアのモデナにあるフェラーリ本社に納品に行きました。」(承龍)

 どこへ行くにも和服姿の二人。ところが、ここでちょっとしたハプニングがありました。

「腰に挿している扇子を、脇差しと間違われて『あの二人の侍は刀を持っているんじゃないか』と、一瞬、騒ぎになったようです(笑)」

 日本の伝統文化の進化形といったいでたちの二人は、これからも海外でさまざま伝説を作っていきそうです。

《5》儚さ、優しさ、ほのか。香りの味わい方にも日本がある

「誂処 京源」には、お香の香りがほのかに漂っています。

「伽羅が一番好きですね。毎朝、焚いています。科学的な強い香りは苦手で。香りも、食もそうですが、日本のものって、優しさでできていると思います。お花ひとつとっても、西洋は薔薇とかビビッドな色と香りですよね。でも、日本は桜、梅。すごく儚い、優しい色合いと、ほのかな香りです。リフィットよりも、グラデーションを楽しむ。そういうところがある。多分それが香りの味わい方にも通じていて、ほのかに空間に漂ってくれる感じ、残香を愛するようなところがいいんですよね」(耀鳳)

 日本を感じる感性の豊かさ、確かさは、家紋に向き合う心とも通じるのでしょうか。
 変わらないその感性、心の部分を伝えるために、手描きとデジタルを駆使する。波戸場親子の挑戦は、ますます世界にも求められていくことでしょう。今回の展覧会のタイトルに「円と線」ではなく「縁と線」と冠した心にもまた、日本人が忘れてはならない気概を感じるのです。

波戸場承龍さん、波戸場耀鳳さん

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●展覧会
『 縁と線 -京源のキセキ-』
期間:2024年11月23日(土)〜2025年1月12日(日)
休館日:月曜日
※年末年始休館:2024年12月31日(火)~ 2025年1月5日(日)
時間:11時00分〜19時00分
場所:BAG-Brillia Art Gallery-(東京都中央区京橋3-6-18 東京建物京橋ビル )
入場無料
主催:東京建物株式会社
企画監修:公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
https://www.brillia-art.com/bag/

●公式サイト
https://www.kyogen-kamon.com/


取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com


2024.12.26 written by 森綾
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