4月2日。このインタビューの日に、歌心さんは2枚のアルバムを2つのレーベルからリリースした。ビクターからはオリジナル曲2曲も含む『SONGS』を、エイベックスからは『HEARTS』を。
どちらも日本のポップスから選りすぐった名曲のカバーが並ぶ。
6月には、リリースを記念したツアーが彼女の出身県である栃木県宇都宮から始まる。
「本当は私の地元は那須塩原なので、夢は本当に地元でコンサートを開きたいんです。若い頃にイベントに呼んでくれた地元のお世話になった方々にも恩返しをしたい」
何度も挫けそうになった彼女の歌手生活にとって、故郷はいつもあたたかい場所だった。
「実家に9月になると金木犀が咲くんですね。オレンジのちっちゃい花がわーって。いちじくの木もありました。祖父が庭の手入れをしていて、発泡スチロールに土を入れて、バラも栽培していました。91歳で亡くなったんですが。だから、今も街中で金木犀の香りをかぐと、あ、おじいちゃん、今いるな、来たな、って思ったりします。すごく優しい祖父だったので。私は小さい頃、木に登ってそのまま昼寝したりしていました。今も両親は元気ですし、実家のことも忘れたことはありません。でも、金木犀の香りが漂うとすごく懐かしくなりますね」
そんな故郷で、コンサートをやるという夢はすぐに叶いそうだ。夢はまだまだある。
「紅白歌合戦に出たい。母は私がテレビに出るとか、ニュースに取り上げてもらうとか、すごく喜んでくれるんです。『励みにも、何よりの楽しみにもなっているし、ありがとね』と言ってくれる。やっとちょっと親孝行できてるのかなと。それから、国歌斉唱をしたい」
一本の木が30年かかって立派になるように歌心りえさんの歌声にはもはや人を木陰に休ませるような安心感がある。彼女の歌はきっとこれからまだまだ香り立つ花を咲かせることだろう。
●歌心りえ
オフィシャルサイト
https://www.utagokororie.com/
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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