ノンフィクション作家として活躍した後、弟の樹林伸さんとの共同活動で、亜樹直(あぎ・ただし)のペンネームで漫画『神の雫』の原作を手がけた樹林ゆう子さん。韓国やフランスなど世界も含めた累計発行部数は1500万部を突破した作品は、また各国でのワイン・ブームを牽引している。日仏合作で新たにリメイクされた山下智久主演のドラマが世界配信される今、長きにわたって愛される作品の原作者の想いとは。
サングラスをかけて表情を決める樹林ゆう子さんは、話をすれば気のおけないチャーミングな大人の女性。もともと20代の頃は雑誌のライターとして、多忙な日々を送っていたという。
「20代の頃、編集プロダクションに入社しました。ここでは、当時、創刊ラッシュだった写真誌の取材をやったりしてましたが、86年に小学館のトレンドマガジン『DIME』が創刊になり、軸足をこの雑誌に移して、ライターとして独立しました。『DIME』ではコラムや特集記事、やがて人物伝の連載もやらせてもらうようになりました。」
30歳ぐらいの頃は忙しさもピークになっていた。
「年間10日間ぐらいしか休めなかった超多忙な年がありました。それで年収がいくらだろうと思ってよくよく見たら、1000万円にちょっと欠けているくらい。一番働ける時期にこんなに働いて、これだけか、と。ということは、年齢を重ねれば下がる一方に違いないと思ったんです」
そんな折、家庭の事情も勃発。
「祖父を継いだ父親の会社が倒産したんです。工業機械の特殊な部品を作っていたんですが、外国産の低価格に勝てなかった。借金もかさんでやばい、と。弟は講談社の社員で漫画の編集者だったんですが『親父ヤバいから、オレも会社辞めて独立して漫画の原作やろうかな』と言い出したんです」
弟の伸さんは『金田一少年の事件簿』の連載を立ち上げたことで知られているが、殺人トリックは彼自身がアイデアを考えており、編集者ではあるが、実態は作家的な仕事もしていた。
「『なんか一緒にやる?』と言われて。実は私も中学生のときに漫画を描いていて、3回くらい賞をもらったんです。今は絵は書けませんけど。それで92年ごろ、弟とユニットを組んで原作を始めたのが『金田一少年の事件簿』で、その後『サイコメトラーEIJI』も連載スタート。サイコメトラーEIJIと同じ漫画家・朝基まさしさんと始めた政治漫画『クニミツの政』では、講談社漫画賞をいただきました」
『クニミツの政』は、蕎麦屋の息子・武藤国光が幼馴染の爆破魔の犯行を止めるべく、国会議事堂で演説したのをきっかけに政治の世界に目覚めていくというもの。ゆう子さんの取材能力が生きた作品だ。
「政治漫画なので、政治家の方々に面白い取材をさせてもらいました。世の中の裏側を見ることができて楽しかったですね」
ではこの姉弟コンビがいったいどうして「ワイン」というテーマに辿り着いたのだろうか。