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    第259回:樹林ゆう子さん(作家)

《4》とことんまで行ったところにしか見えない世界がある

 こうして原作者のお二人がワインにはまった体験が生きた『神の雫』は世界中に広がり、23年も続くロングセラーとなっている。
 本編が44巻、その後、続編が26巻。それだけの原作の物語をつくり続けるのは、ワインの知識だけではなく、その背景にある文化や歴史への探究、そして人間の心理への追求があってのことだ。

「二つパターンがあって。例えば『神の雫』は、まず十二使徒と言われる12本のワインを探すというてテーマがありましたが、あの12本は飲んだ瞬間にパーッと世界が出来上がっているので、ストーリーが書けてしまうんです。一方で、ストーリーから考え始めると、当てはめるワインを探すのがけっこう大変ですね」

 朽ちない作品のポテンシャルは、やはりワインを実際に集め、飲み、産地に赴いて、とことんまで突き詰めたところにあると考えている。

「自分たちがワインにのめり込んで、とことんまで行ったわけですよね。とことんまで行って、そこでしか見えない世界があった。表現を通じて誰かにその美味しさとか、飲んで楽しいということを伝える。それを私たちはワインを主役にして、初めて伝えることができた。だからこそ、何度も繰り返しリプレイされている理由だと思います」

 今、姉弟は『女性自身』で『キラー通りのソムリエ探偵』というワインミステリーを連載している。

「隠れ家ワインバーにいるソムリエが事件を解決していくという話なんですが。エチケットに事件のヒントがあったりね」

 創作が続くと同時に、ワインへのますますの探究にも熱心だ。

《5》ワインはひとりで飲むものじゃない

 今回のインタビューは、銀座らん月で行った。
 アペリティフとして日本香堂と宮泉銘醸がコラボレーションした『暁霞(あきがすみ)』を試飲していただいた。
 同店の唎酒師の坂本幸志氏とも、醸造の話から愉しまれていた。

「複雑な醸造をされたんですね。二段酵母というのは面白い。確かに、まさに明け方の空のように複層的な香りがします。このお酒はワイングラスで提供するのがぴったりですね。グラスは絵に例えるとキャンバスのようなもの。小さいと感じ取れる世界が限定されてしまうんです」

樹林ゆう子さん

 その後、和牛メインのコースに合わせ、国産ワインを選ばれた。赤は本州最北端の津軽ワインを。

「綺麗な色ですね。北へ行けば行くほど、色が薄くなっていくんですが。鉄のニュアンスを感じるので、赤身の肉料理に合うと思います。ワインの中にある一個の要素を料理に寄り添わせていくのがペアリングの楽しみなんですよ」

 日本のワインについても、もうかなりの種類をお飲みのようだ。

「ワインを評価するときに液面の光り方を見るんですが、このワインはピンクがかった赤で綺麗に光っていますよね。まるで少女のよう…」

 蘊蓄でも情報でもなく、今ここにあるワインを味わいながら語る。ゆう子さんとワインを飲むのは誰もが楽しそうだ。

「ワインって一人で飲むものじゃないんですよ。ビールだったらいいけど。ああだこうだ言いながら、コミュニケーションするお酒なんですよね。だから私は一人ではワインは飲みません。
『神の雫』も、こうだよね、そうだよね、ということの繰り返して言葉が出てきて転がしていった。感性のキャッチボールで生まれていったんです」

 ワインから始まる豊かなコミュニケーションが物語を生み出し、その物語がまた次のコミュニケーションを生んで広がっていく。そして、ツールとなるワインが愛され、ブームとなる。名作『神の雫』から始まった同心円は、今もこうして世界を巻き込んでいる。

樹林ゆう子さん

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世界配信ドラマ『神の雫』ティザー

《取材協力》銀座らん月
https://www.ginza-rangetsu.com/

純米吟醸酒「暁霞」
銀座らん月公式オンラインショップ
樹林ゆう子さん


取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com


2025.10.23 written by 森綾
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