思えば無謀ではあるけれど、スターバックスでバイトをしていたことから、上京先でもその系列店で働けることに。
「意味わからないですよね(笑)。スタバでバイトは続けながら、まず最初に名刺を作ったんです。あっ、それもわからないですね(笑)。一応、20歳までバレエをみっちりやっていて、15年、衣装もつくっていたりしたので」
大学4年生の時、就職活動の代わりにしたことは、映画を400本観ることだった。
「映画は大好きだったので。それで、東京で自主制作の映像をつくる人のコミュニティに入ったんです。休日にそこへ行っては、いろんなクリエイターと知り合いになって、最初は自主制作映画づくりに参加しました。実は今やっている活動を支えてくれているメンバーもそこで知り合った人たちなんですが」
撮影のため、1ヶ月合宿するなかで、彼女は衣装を作り、みんなのご飯をつくることも買って出た。
「そのうち、助監督がやるようなカット割りやスクリプトを手伝ったり、一通りのことをやりました。そのときのメンバーには、後に『カメラを止めるな』を撮った曽根剛さんというカメラマンもいます。いろいろ迷っていたときに漫画家の御茶漬海苔先生が『自分で映画つくったら?』と言ってくださいました。皆さんが手伝ってくださって『プシュケ』という作品を撮って、カフェで上映しました。それがコマ撮りアニメを勉強するきっかけになりました」
コマ撮りアニメとは、絵の写真を1枚ずつ撮り、編集で繋げて動かしていくもの。
「自分で出演もしました。これは作品を一つ完成させるという、良い経験になりました。そして分かったのは、もうちょっとミニマムに手元でつくれるものに自分一人で集中した方が私には合っているということでした」
やがて彼女の感性があるブランドの目に止まり、CM映像の依頼が。
「そのときは、ビーズと布。洋服をつくる道具だけでセットをつくったんです。ビーズを動かしていたときに、砂でもできるということを知りました」
こんな絵があれば素敵じゃないか、というアイデアはどんどん湧いてくるという花りんさん。でも絵の技術に対して、もっと上を目指したかったといいます。
「思うように描けないから、絵の教室に通い始めました。仕事が始まったと同時に、そのギャラはそっちへ。池袋にあるプロのための講座で、実は今もそこへ通っているんです。一から絵の描き方を学んでいます」
黒い画用紙に白で描いたクロッキーも見せてもらった。
「10分でモデルさんを描くんですが、光をとる練習をしているので、黒になるべくシンプルな線で描いているんです。サンドアートをやりつつ、でてきた課題を先生に相談し、アドバイスをいただきながらやっています」。

当初は今よりも黒っぽい砂を使って描いていたが、今は白いサラサラした砂を使う。
「もともと使っていた砂の販売がなくなって、どうしようかと思っていたんです。もうちょっと黒めな砂だったのですが。もうちょっといい砂がないかとも思ってはいました。それで、良さそうと思った名古屋トウチュウという会社へ連絡して『すみません、個人に販売してもらえないでしょうか』とお願いしたんです。そうしたら、トウチュウさん(砂の会社さん)が半田赤レンガ建物(https://handa-akarenga.com/mission/)で復刻カブトビール(昔ながらのクラフトビール)の製造に関わっていたのでイベントをやっていて、私がそこでパフォーマンスをしたのを知っていてくれていたんです。それで『いいですよ、提供しますよ』と言ってくださったんですよ」
サンプルもいくつか出してもらい、使いやすい砂を選んだそうだ。
「普通に買うとすごく高い砂で、個人で贅沢には使えないという感じ。本当に幸運が重なってやっているんで、不思議なんです。絵を描いて食べていこうなんて、思ったことはなかったので」
ひとつずつ、丁寧につくりあげてきたこと、出会いを大事にしてきたことが形になっていく。
花りんさんは偶然とか幸運だというけれど、それを引き寄せるものを彼女はちゃんともっているのだろう。
ステージでは、気合を入れるために、好きな香りの香水をまとう。
「マークジェイコブスのシリーズなんですが、花のモチーフがついたキャップが可愛くて。グリーンフローラルとか、アクアとか爽やかな香りが好きです」
砂には香りはないので、彼女が動くたびに爽やかな香りが空気に伝わっていく。とにかく、砂をライトボックスにパラパラっとまいたり、指で描いたり、仕草の一つ一つが香るように美しい。
