「根岸です。ちょっと歩くんですけどね」
光はあっという間にパスタを平らげてしまった。紙ナプキンで口の周りを拭い、ビールをもう1本頼んだ。
恭仁子が新しいビールの栓を開け、グラスと一緒に置いた。
「で、どんなお墓なんですか。今流行りの建物の中にあるようなのかしら」
「いや、寺の一角なんですけれどね。小さなガラスの墓が並んでいて、そのうちの一つなんですよ。何年か経つと、まとめて樹木葬にするようなんです。母はどうやってそこを調べて契約していたのか… まあ、僕にとっては負担はないですよね。それに、高台だと、階段上がったりしなきゃならないけど、平地だし。でもなんで横浜なんだよとちょっと思ったんだけど」
幸はどきりとした。ひょっとして、ミツコは自分に来てほしかったんじゃないかと。そう思って光を見ると、ぱちっと目が合った。
「あ」と、光は口を開けた。
「幸さんに来てもらいたかったのかな」
幸はかぶりを振って言った。
「そんなに仲良しだったわけじゃ… あ、いや、そうかもね」
最初は店の中の先輩と後輩。そうして店と店のライバル。…でもそれだけだったのだろうか。友達、というものが、常に仲が良くて一緒にいる同等なものだとは限らない。ひょっとしたら、ミツコと幸は、お互いがお互いにその存在を心の深いところで認めている、そういう友達だったのかもしれない。
「私、お参りに行きたいわ。場所、教えてくださいな」
幸は次の休みに、根岸に行くことにした。